公開発表された著作は、個人又は家庭内における非営利目的である場合は、適正な範囲内において図書館及び公衆の使用に供される機器以外の機器を用いて複製することができる。

【解説】

本条は、個人的な非営利目的である場合の適正な利用に関する条文であり、最も普遍的な適正な利用の態様である。利用主体は特定の者に限定されず、「個人又は家庭内における非営利目的」でありさえすれば本条により適正な利用を行うことができ、それが間接的に企業の営利目的であるか否かについて全く制限はない。従って、企業の職員が企業の問題を解決するため、個人の学習過程において本条に基づき適正な利用を行うことができる。本条が「個人又は家庭内における非営利目的」であることを前提としている以上、複製物を家庭外の者とシェアすることはできず、また、利用者に代わって録音・複写することはこれには含まれない。

本条において利用できる客体は「公開発表された著作」に限られ、「未公開発表の著作」は含まれず、使用できる複製機器は「図書館及び公衆の使用に供される機器以外の機器」、例えば、図書館又は個人が使用する複写機、スキャナー、コンピュータ又はオーディオレコーダー、ビデオレコーダーに限定される。一般のコンビニエンスストア又はコピーサービス店における複写は「公衆の使用に供される機器以外の機器」には該当しないが、第65条第2項の「その他の適正な利用」により行うことができ、「適正な範囲内」であるか否かについては、第65条第2項に規定される4項目の基準により認定されなければならない。

本条の適正な利用の態様は広範にわたり、最も重要な判断基準は「市場代替」効果を形成するか否かであり、他人の著作を利用した結果が消費購買に取って代わるような場合、例えば、インターネットを通じて音楽をダウンロードし音楽CDの購入に代替するような場合は、本条の適正な利用であるとは認められない。同様の理論により、購入した適法なCDをMP3に変換してハードディスクに保存する又は自己のCDバーナーを用いて予備のCDを作成することが、本条の適正な利用の規定により著作権侵害に該当しないか否か、又は第65条第2項の「その他の適正な利用」となり得るか否かは検討の余地があり、疑問のあるところでもある。

本条は、国際的に「家庭内録音(home taping)」又は「私的複製(private copy)」と称される適正な利用である。アナログ時代における個人複製は、ハイコスト・ロークオリティーであり、ほとんどが「タイムシフト(time-shift)」の用として、即ち、後で鑑賞するための録音録画ということから著作者にそれ程影響を与えなかった。近年のデジタル科学技術の発展は、家庭における録音録画コストを削減し、ハイクオリティと長期保存を実現可能にしたが、実際のところ、著作権者が個人の領域に踏み込んで権利主張をすることは極めて困難である。欧米において発展してきた「補償金制度(levy system)」は、複製機器又は複製媒体から一定の割合の補償金を徴収し、広く行われている個人複製による著作権者の損失を補償するものである。このような補償金制度は、基本的に、適正な利用に該当する場合の著作財産権者に対する適正な補償であり、適正な利用の範囲に該当しない一般利用の許諾に代替するものではない。