中央又は地方機関、法に基づいて設立された各級の学校又は教育機構が行う各種試験は、試験問題として用いるために、公開発表された著作を複製することができる。ただし、公開発表された著作が試験問題である場合にはこれを適用しない。
【解説】
本条は、公的機関、学校が行う試験問題に他人の著作を用いる際の適正な利用に関する規定である。本条に基づき適正な利用ができる主体は「中央又は地方機関、法に基づいて設立された各級の学校又は教育機構」であり、利用の目的は「各種試験の実施」にあり、例えば、初級・高級、特殊公務員試験、大学入学共通試験、高校入学共通試験及びその規模にかかわらず各級の学校が行う各種試験が含まれる。適正な利用を行うことができる客体は「公開発表された著作」に限られ、これには「試験問題」は含まれない。例えば、高校の国語教師が余光中の新体詩をリーディング試験の読解用の文章とし自らの出題を追加する、美術史教師が張大千の書作を試験問題用紙に複製し学生にその書風と構想等について分析させる場合等が考えられるが、世間の塾・予備校等又は出版社が作成する試験問題を学校の試験用に直接利用することはできない。本条の適正な利用の方法は「複製」に限られ、その他の方法には及ばない。
本条の適正な利用は、第9条第1項第5号の「法令に基づき行われる各種試験問題及びその予備問題」とどのような関係にあるのだろうか?換言すれば、著作権法の保護を受ける著作が、本条の規定に依拠し、適正な利用として「法令に基づき行われる各種試験問題及びその予備問題」とされたことにより、その後、著作権の目的となることができないのだろうか?試験問題以外の一般著作については、中央又は地方機関、法に基づいて設立された各級の学校又は教育機構が各種試験を行う際に、著作財産権者の同意を得ることなく試験問題用に複製される可能性がある。もし、著作財産権者は一度もその著作が試験問題とされることに同意を示したことはないのに、著作が第54条の規定により一旦「法令に基づき行われる試験問題」となった時点で著作権法の保護が受けられなくなるのであれば、著作財産権者に対して非常に不公平な結果となる。従って、個々の著作が試験問題の一部とされた場合において、試験問題全体の利用として当該個々の著作が使用される場合には試験問題は著作権の目的とならないことから、個々の当該著作を自由に利用できると解されるが、試験問題の一部となった著作の単独利用については、当該著作は試験問題の一部となったためにその著作権を喪失するものとされるべきではない。
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