近年、台湾著作権法制は頻繁に変動しております。2001年からなんと10回に及ぶ改革がありました。そのうち、著作権法の改正が8回行われました。著作の利用許諾システムに密接に関係する著作権仲介団体条例は、2010年2月に大幅に修正され、著作権集中管理団体条例として2010年2月に新たに制定・公布されました。8月末に施行された文化創意産業発展法は、その第23条及び第24条において、著作権に関する条文を新設しました。
これらの頻繁な改正動向は、著作権法の教学・研究に従事する学者・教授と実務家に挑戦状をたたきつけました。というのも、時代に即した、適時更新された著作権法の教科書又は参考書は見当たらないからです。1998年からスタートした「著作権筆記」公益ウェブサイトでは、まさにこれらの問題を解決することができます。法律改正又は新法の制定の都度、草案段階からウェブ上にアップし始め、追って分析・評価を加えていくことにより、各方面の関心及び参加を促し、それらの意見をすべて検討していただきたいと考えておりますので、立法を積極的に遊説することに偏るのではなく、立法過程におけるすべての提案と発言について記録を残すことで、その歴史的記録に責任を負っております。法案通過後は、一方で新法の解説と評論を試み、法学刊行物とウェブサイト上の「著作権法関係論文」コンテンツにおいて同時に発表し、他方でウェブサイト上の「著作権法関係法律逐条解説」コンテンツにおいて、逐条解説を行うとともに、著作権専属責任機関の通達や司法解釈もアップし、各界に各条文の立法理由及び実務の適用実態を分かりやすく提供しております。
台湾著作権法制は、2010年2月に、いくつかの重大な改正、制定が行われました。以下、簡単にご説明いたします。
一、著作権法第37条第6項において、第2号から第4号を新設し、公開放送の著作の二次利用及び広告の著作利用に関する著作権侵害行為を非犯罪化しました。前者は、旅館、医療施設、レストラン、喫茶店、百貨店、スーパー、コンビニ、旅客運搬車両等の不特定多数の者が出入りする場所又は公衆が使用する交通手段が、テレビ若しくはラジオ番組を放送し著作を利用する場合において、刑事責任を免除しました。後者は広告放送者が、著作が広告に適法に使用された後の公開放送や同期公開送信について、刑事責任を免除しました。これらの改正は、少数の著作権者が著作権集中管理団体に加入せず、適法な許諾料徴収システムに従って、刑事訴追を理由に不適切な使用報酬料を請求し、利用者に不便及び混乱を生じさせることを純粋に回避するためのものです。
二、著作権法第53条において、学習障害学生に関する適正な利用の条項を設け、学習障害学生の学習の権利を保障しました。
三、著作権仲介団体条例は、著作権集中管理団体と名を改め、使用報酬率は、事前審議制度から、事後報告制に改め、必要があれば、審議を申請することができるものとしました。また、異なる種類の著作の著作財産権者が種類の枠を超えて共同して単一の集中管理団体を組織することを禁止しました。共同使用報酬率、統一窓口を設け、団体と会員の平行許諾を認め、著作権集中管理制度がスムーズに運用され、著作の利用に有益になるよう期待されております。
四、新たに制定・公布された文化創意産業発展法は、第23条及び第24条において、著作財産権の質権設定登記及び著作財産権者不明の著作の強制利用許諾制度について新たに規定を設けて、文化創意産業の発展に資するものとしました。
前述の著作権法及び文化創意産業発展法の改正及び制定は、今回の第三版における重要な加筆修正ポイントです。新たに制定・公布された文化創意産業発展法第23条及び第24条の逐条解説を著作権法逐条解説に盛り込んだことについてですが、この二つの条文は、そもそも著作権の問題であり、著作権法の中に定められるべきものであり、文化創意産業発展法の中に収録されてしまったことにより、皆さんが著作権法の中から当該二つの条文を取りこぼすことがあってはいけないからです。現在、著作権専属責任機関は、将来、当該二つの条文を著作権法の中に引き戻すことをすでに決定しております。ですから、本書の第三版にはあらかじめ収録することとしました。著作権集中管理団体条例逐条解説については、逐次ウェブサイト上に公開し、将来的には時機を見て中国語版と日本語版を出版できればと考えております。
ウェブサイトのメリットは随時更新できることですが、書籍もやはり必要なものです。なぜなら一般の方の習慣に基づいて発行する必要があるからです。「著作権法逐条解説」の中国語ネット版は、引き続き私が更新・補充しており、中国語の書籍は2007年3月に初版発行、2009 年8月の第2版を経て、2010年9月には第3版の発行が予定されており、五南文化事業機構の書泉出版社の方々のご協力に心よりお礼申し上げます。日本語のネット版は、中国社会科学院知的財産法博士、北京市天達律師事務所顧問の萩原有里さんが引き続き逐次翻訳しており、日本語の書籍は2008年8月下旬に日本財団法人経済産業調査会から東京にて初版が発行され、今のところまだ再版の予定はありません。
著作権と日常生活及び仕事は密接な関係があります。一般の方は通常、あまり重要視しませんが、権利侵害を受けたとき、又は他人の権利を侵害してしまったときに、その重要性を認識して情報探しに乗り出します。「著作権筆記」では、ウェブサイト上で自己の著作権分野における学習・実務・教学経験を皆さんと共有したいと考えております。2009年より、国立交通大学科技法律研究所の著作権テーマ研究科目を履修している学生達の協力の下、毎年、「著作権白書」を編纂し、当年度の国際、両岸著作権法制度及び実務動態について、観察、記録及び評価を行い、翌年一月末頃までにウェブサイトに公開しております。2010年8月初旬から10月末まで、米国シアトルワシントン大学ロースクールにおいてフルブライト奨学金の訪問学者として、米国の大学キャンパスにて著作権に関する課題及びその解決方法を深く学ぶ機会を得ました。そのため、著作権テーマ研究科目をしばらく休講せざるをえませんので、「2010年著作権白書」は自力で完成させ,これからも継続していけるよう、ここに誓いを立てたいと思います。
章忠信
2010年8月、米国シアトルワシントン大学ロースクールにて。
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