世界貿易機関を設立するマラケシュ協定が中華民国 管轄区域内において効力を生ずる前に第106条の1の著作の翻案によって完成した二次的著作であって、今まで本法により保護を受けたものは、当該発効日以後は引き続き利用することができ、第6章及び第7章の規定を適用しない。
中華民国 92年(2003年)6月6日本法の改正施行から、利用者は前項の規定により著作を利用する場合は、原著作の著作財産権者に自由交渉した金額に相当する合理的な使用報酬を支払わなくてはならない。
前2項の規定は、二次的著作の保護に対して影響を及ぼさない。

【解説】

本条は、台湾のWTO加盟前に第106条の1の遡及保護を受ける著作を「翻案」により利用した場合に、台湾のWTO加盟後に引き続き利用できるか否か及びいかに著作財産権者に補償するかに関する経過措置について規定するものである。

第106条の1の遡及保護規定が適用される著作は、台湾のWTO加盟前においては本来台湾著作権法の保護を受けないことから、誰でも自由に翻案することができた。台湾のWTO加盟後、それらは遡及して台湾著作権法の保護を受けることから、遡及保護前にすでに当該著作の翻案を行った者は本来それが自由に利用することができるパブリックドメインとなった著作であると信じて翻案を行ったのに、突然それが著作権侵害という結果に転じのであるから、公平な処理を行うべきであることは明白である。

第1項は、台湾のWTO加盟前に、第106条の1の遡及保護規定が適用される著作がすでに翻案された著作であって、依然として台湾著作権法の保護を受ける場合は、その自己の創作部分が第6条の規定により独立して著作権法の保護を受けることに基づき、その経過措置期間中の待遇はその他の利用行為とは異なり、世界貿易機関を設立するマラケシュ協定が台湾管轄区域内について効力を生じた後引き続き利用することができ、著作財産権者に対して民刑事責任を負う必要はない旨規定している。

本条第1項の規定が適用され経過措置がとられるものは、すでに翻案され新たな二次的著作の状態となっているものでなくてはならず、「すでに利用に着手」又は当該著作の「利用のために巨大な投資を行っている」だけで新たな二次的著作がいまだ誕生していない又は新たな二次的著作が誕生しない場合は、第106条の2の規定を適用することができるにすぎない。

本条第1項において認められる継続利用は、善意の利用者を保護するものであり、本法の1998年改正時においては、第2項は本来WTO加盟後2年を経て初めて著作財産権者に補償を与える旨規定していたが、これらの著作の保護開始後2年待たなければ著作財産権者に経済上の補償規定が与えられないのであれば非常に不合理であり、2002年7月にWTOのTRIPS理事会が台湾の著作財産権法規を調査した際、米国、日本及びEUの非常に厳しい指摘を受け、TRIPS協定第70条第4項の規定に基づき補償を与えることが適切であるとの検討を経て、2003年7月に第2項を改正し、改正法の発効日即ち2003年7月11日から、事前に利用者に著作財産権者に対して自由交渉した金額に相当する合理的な使用報酬を支払わせることにした。この規定は、著作財産権者に債権としての請求権を取得させるだけであり、使用者が支払わなかった場合は、著作権者は当然請求することができるが、利用者の著作権侵害とはならない。

第2項が原著作の著作財産権者に対し使用報酬の支払を課している「利用者」とは、原著作を利用し翻案して二次的著作にした者で、必ずしも著作財産権者であるとは限らない。従って、著作の利用を行った著作者がすでにその二次的著作の著作財産権を他人に譲渡したが原著作の著作財産権者に使用報酬を支払わなければならないという特殊な状況を生み出すかもしれないが、これは当然の帰結である。なぜなら、ここで利用されるものがかつてパブリックドメインとなった著作であり、現行の立法政策上原著作が遡及保護を受けることとなった以上、元の利用者は法律に定められる条件の下で原著作の著作財産権者に補償しなければならず、また、二次的著作を譲り受けた著作財産権者は本来完全給付の担保責任を負い、原著作の著作財産権者に適切な使用料を支払わなければ二次的著作の著作財産権者による著作財産権の行使は阻害又は損失を受けることとなり、二次的著作の著作者は不完全給付の責を負わなければならないからである。

本法第6条が「原著作を翻案した創作は二次的著作であり、独立した著作としてこれを保護する。二次的著作の保護は、原著作の著作権保護には影響を及ぼさない。」と規定し、第1項の適用を受ける二次的著作が原著作を翻案した創作であるからには、第6条第1項の規定により著作権法の保護を受け、原著作が著作財産権の遡及保護を受けるか否か又は二次的著作の著作者が原著作の著作財産権者に適切な使用報酬を給付するか否かは、二次的著作の保護に対して何ら影響を及ぼさないことから、第3項は「前2項の規定は、二次的著作の保護に対して影響を及ぼさない。」と特に明確に規定している。

2008年11月17日原文修正に伴い訳文修正