前条の規定により保護を受ける著作について、その利用者が世界貿易機関を設立するマラケシュ協定が中華民国 管轄区域内について効力を生ずる前にすでに当該著作の利用に着手し、又は当該著作の利用のために巨大な投資を行っている場合は、本章に別段の定めがある場合を除き、その発効日から2年以内は利用を継続することができ、第6章及び第7章の規定を適用しない。
中華民国 92年(2003年)6月6日本法の改正施行から、利用者は前項の規定により著作を利用する場合に、賃貸又は無償貸与を除き、利用される著作の著作財産権者に自由交渉した金額に相当する合理的な使用報酬を支払わなくてはならない。
前条の規定により保護を受ける著作について、利用者が許諾を得ず作成した複製物は、本法改正公布の1年後から販売してはならない。ただし、賃貸、無償貸与は引き続き行うことができる。
前条の規定により保護を受ける著作を利用して新たに創作された著作の複製物は、前項の規定を適用しない。ただし、第44条から第65条の規定に該当する場合を除き、利用される著作の著作財産権者に対して、通常、当該著作について自由交渉した金額に相当する合理的な使用報酬を支払わなくてはならない。

【解説】

本条は、台湾のWTO加盟前において利用された第106条の1により遡及保護を受ける著作を、台湾のWTO加盟後も引き続き利用できるか否か及びいかに著作財産権者に補償するかについての経過措置について規定するものである。「翻案」としての利用は、特に第106条の3に別途明文規定が設けられている。

第106条の1遡及保護の条文規定が適用される著作は、台湾のWTO加盟前においては台湾著作権法の保護を受けない以上、本来誰でも自由に利用することができたが、台湾のWTO加盟によりその後遡及して台湾著作権法の保護を受けることから、遡及保護前に当該著作を利用した者は、本来それが自由に利用できるパブリックドメインとなった著作であると信じて利用したにもかかわらず、突然それが著作権侵害という結果に転じるのであるから、公平な処理を行うべきであることは明白である。これが第106条の2及び第106条の3の経過措置条項が設けられた理由である。

第1項は、台湾のWTO加盟前において、第106条の1の遡及保護規定が適用される著作について翻案以外の利用行為に着手し又は当該著作の利用のために巨大な投資を行っている者は、台湾のWTO加盟後、当該協定が台湾において発効した日から2年以内は引き続き利用することができ、著作財産権者に対して民事・刑事責任を負う必要はない旨規定している。

ここにいう「利用」とは、「翻案」行為が第106条の3の適用範囲とされることを除き、著作者が個別の著作について各種著作の種類に基づき、台湾がWTOに加盟する前に享有している本法第22条から第29条の複製、公開口述、公開放送、公開上映、公開演出、公開展示、編集、賃貸等の利用行為をいう。2003年7月9日の本法の改正により新たに付与された公開送信及び譲渡等の著作財産権については、一般の著作同様、2003年7月11日新法の施行日より本法の規定が適用される。ただし、本条第3項及び第4項の譲渡権の部分については、別途特別規定が設けられている。

本条文は、世界貿易機関を設立するマラケシュ協定が台湾の管轄区域内について効力を生ずる前にすでに当該著作の利用に着手し又は当該著作の利用のために巨大な投資を行っている場合にのみ適用され、世界貿易機関を設立するマラケシュ協定が台湾の管轄区域内において発効した後当該著作を利用しようとする者は、第44条から第65条に定められる適正な利用に該当する場合を除き、原則的に本法第37条の規定に基づき著作財産権者の同意又は許諾を得なければならない。

本条に定められた2年の期間は、「すでに利用に着手」又は「利用のために巨大な投資を行っている」利用者の当該業務の整理に当てられるものであり、2年の過渡期を経なければ遡及保護条項が効力を生じないという意味ではない。

本条が「当該著作」と称している以上、必ず「特定の著作」の存在を前提としており、例えば、すでに印刷製作に着手したある遡及保護を受ける著作が制作途中の未完成作品であっても本条の経過措置条文を援用することができるが、「特定の著作」が存在しない場合、例えば作業場所・設備を購入しただけでは直接これを援用することはできない。

本条文が定める2年の経過措置期間中は、利用者はむろんその利用行為を継続できるが、2年経過後当該著作を引き続き利用したい場合は、本法第37条の規定に従って著作財産権者の同意又は許諾を得なければならない。従って、利用者はビジネスチャンス及び将来の許諾取得可能性等の情勢を視野に入れて、遡及保護の開始時に当該著作を継続して利用するか否かを速やかに決定すべきである。

本条第1項が認める継続利用は善意の利用者を保護するためのものであるが、その利用について、これらの著作の保護が開始された後著作財産権者に何ら経済上の補償を与えないのであれば不合理である。本法の1998年改正時、本来著作財産権者に対する補償規定は設けられていなかったが、2002年7月のWTOのTRIPS理事会が台湾の知的財産権法規を調査した際、米国、日本及びEUからの非常に厳しい指摘を受け、TRIPS協定第70条第4項の規定に基づき補償を与えることが適切であるとの検討を経て、2003年7月に第2項を改正し、改正法の発効日即ち2003年7月11日から、2003年12月31日までの間、利用者に著作財産権者に対して通常当該著作について自由交渉した金額に相当する合理的な使用報酬を支払わせることにした。2004年1月1日以降、一般原則に立ち返り、許諾を得なければ引き続き利用することはできない。この規定は、著作財産権者に債権としての請求権を取得させるだけであり、使用者が支払わなかった場合は著作権者は当然に請求することができるが、利用者の著作権侵害とはならない。

本条文にいう「利用」には本来販売は含まれなかったが、本法第29条の1の譲渡権がWTO加盟後の2003年7月9日に新設されたため、本条第3項はこれに伴い、この改正公布の1年後即ち2003年7月11日から、これらの本来許諾を得ずに利用された複製物は販売することができないこととした。第3項にいう複製物とは2003年12月31日までに複製したものであり、2004年1月1日以降の複製については、一般原則に基づき許諾を得なければ、更に頒布することはできない。

TRIPS協定第70条第5項がこれらの著作の賃貸権に保護を与えなくてもよいとし、これらの複製物は侵害物には該当せずその無償貸与も非合法ではないことから、第3項において除外規定を設けて未許諾の賃貸又は無償貸与を認め、使用報酬を支払う必要はないとし、かつ本法の改正公布の1年後も依然として賃貸することはでき、当然無償貸与もすることができることとした。

第4項は、遡及保護を受ける著作を利用し別途創作した著作の複製物について明文規定を設けた。例えば、視聴覚著作において本来保護を受けない日本人の歌曲を利用し、詞をつける又は直接その歌曲をタイトルテーマ曲とする場合である。単純な複製ではないことから、第3項の規定は適用されない。また、二次的著作でもないため、第3項の1年間という販売制限は適用されず、引き続き利用することが許され、販売を禁止する必要はない。そこで、第44条から第65条の規定に該当する場合を除き、利用される著作の著作財産権者に対して、通常当該著作について自由交渉した金額に相当する合理的な使用報酬を支払わなくてはならないと規定した。特に注意を要する点として、本項は遡及保護を受ける著作を利用し別途創作した著作の複製物は、第3項の1年間の販売制限規定を適用しないことを明確に規定しており、この複製物とは2003年12月31日までに複製したものであり、2004年1月1日以降の複製については、一般原則に基づき許諾を得なければ、さらに頒布することはできない。

第2項及び第4項にいう「使用報酬金額」は、条文が「自由交渉した金額に相当する合理的な使用報酬」としている以上、当事者双方が一般的な市場相場価格に基づき自由に交渉するものとし、合意に達しない場合は調停、仲裁又は訴訟手続によるしかない。

2008年11月17日原文修正に伴い訳文修正