公衆の使用に供する図書館、博物館、歴史館、科学館、芸術館又はその他の文教機構は、次に掲げる各号のいずれかに該当する場合は、収蔵している著作を複製することができる。

(1) 閲覧者個人の研究のための請求であって、公開発表された著作の一部又は定期刊行物若しくは公開発表された研究会論文集の著作1篇につき1人1部を限度として複製する場合。
(2) 資料の保存の必要がある場合。
(3) 絶版又は購入が困難である著作について、同種の機構からの請求に応じる場合。

【解説】

本条は、図書館又は図書館員の適正な利用について規定しており、一般民衆の適正な利用行為については本条の適用範囲ではなく、第51条の規定による。

本条の利用主体は「公衆の使用に供する図書館、博物館、歴史館、科学館、芸術館又はその他の文教機構」であるが、第3条第1項第3号の公衆に関する定義が「不特定の者又は特定の多数の者」であることから、本条が適用される主体には対外開放されていない会社内部の図書館も含まれる。他国の類似規定においては、その特権を享有することができるのは一般又は特定の研究員に開放しているものに限られている点で大きく異なる。利用の主体は図書館等文教機構であるが、実際利用行為をする者はその図書館等文教機構に所属する職員である自然人である。

本条により利用可能な客体は図書館等文教機構の収蔵物であり、非収蔵物又は収蔵物であっても現在手元にないものは利用することができない。収蔵物の利用に関して、「閲覧者個人の研究のための請求」にあっては一般公衆への流通であることからすでに公表されたものに限られるが、「資料の保存」又は「絶版書の図書館間の相互交換」目的である場合には、保存の目的を重視し、発行の有無にかかわらず利用することができる。また、本条により利用可能な方法は「複製」に限られ、これには複写、録音、撮影、ひいてはデジタル化方式によるものも含まれる。

本条に基づく利用目的は3つあり、以下それぞれ説明する。

1. 閲覧者個人の研究のための請求であって、公表された著作の一部又は定期刊行物若しくはすでに公表された研究会論文集を複製する場合は、1篇の著作を1人につき1部を限度としなければならない。本項の目的は「閲覧者個人の研究のための請求」に該当してさえいればそれでよく、その究極の目的が企業経営又は個人学習の追求かは問題とならない。閲覧者が請求できるものは定期刊行若しくは公表された研究会論文集であり、著作1篇を1人につき1部を限度とする。「すでに公開発表された著作の一部」に関しては、一体どのくらいの分量なのであろうか?法は明文規定を設けていないため、個々の事案において第65条第2項に規定される基準に基づいて判断されることになる。絶版書であり市場において入手し難いが、まだ依然として著作権法の保護を受ける著作は、本号に基づき閲覧者が図書館にコピーの取得を請求することはできない。

2. 資料保存の必要性に基づく場合。これは、収蔵する著作がすでに毀損若しくは遺失し、又は客観的に毀損遺失のおそれがあり、又はその版が旧版である場合であって、市場で適法なルートを通じて同一又は適切な版の複製物を入手することができない場合に、制限して決して館収蔵物を複製することがないというわけではないということである。本項は、かつて今日のような進歩的な科学技術がなかった時代、図書館等の機構が複写又はマイクロフィルム技術により収蔵物を複製し資料保存を行うことにあまり問題はなかったが、デジタル環境の時代においては、印刷物又は録音・録画記録をデジタル方式により複製した後ネットワークを通じてネットワークユーザーの館内又は館外のリサーチ、検索、ひいてはダウンロード又は印刷に供することは、著作財産権者の権益に対して深刻なマイナス影響を及ぼすことから、重大関心事となっている。図書館は主として「資料保存」及び「情報提供」という2つの重要な役割を担っており、この2つの目的が異なる以上、その方法もおのずと異なる。「資料保存」の役割においては、図書館は本項の規定に基づき資料保存の必要のため、著作権法の保護を受ける絶版書を複製することができるが、「情報提供」の役割の面からは、複製本は館内において利用者の閲覧に供することができるにとどまり、利用者に貸し出し館外頒布に供することはできない。その他の非絶版書が消費財であり、遺失又は破損した場合には別に新書を購入しなければならず、直接収蔵物を複製することはできないし、ましてや複製物を利用者に貸し出すことはできない。同様の理論に基づき、著作権法の保護を受けるビデオテープについては、市場にVCDが存在すれば、図書館は本条第2項の規定を根拠として資料保存の必要のためにVCDを作成又はデジタル化することはできず、有償購入によってVCDを取得しなければならない。そうでなければ、著作権者の権益に影響が及ぶこととなる。これは、図書館が業務用ディスクを購入しているか否かには関係がない。なぜなら、業務用ディスクは、公開上映による使用を認めているものであって、複製行為をすることに同意しているものではないからである。市場にVCDが存在していなければ「資料保存」の役割上、図書館はビデオテープをVCDに記録する又はデジタル化することができるが、情報提供の役割上、VCDを館内で利用者の鑑賞に供することは公開上映行為に及ぶため著作権者の許諾を得なければならず、ましてや利用者の貸し出しに供して館外に頒布することはできない。図書館は本項の規定を根拠として、収蔵物の遺失又は破損を回避するため収蔵物を複製し、複製物を利用者に貸し出すことはできない。

3. 絶版又は入手し難い著作について、同種の機構からの請求に応じる場合。絶版書とは、市場において入手が困難で元の出版社も再版をしない書籍をいい、必ずしも著作財産権の存続期間が満了しているとは限らない。依然として著作財産権の保護期間内にある絶版書について、「資料保存」及び「情報提供」の目的に基づき、図書館等の機構は同種の機構からの請求に応じてその収蔵する絶版又は入手困難な著作を複製し当該機構に引き渡すことができる。これらの状況下における複製物は「資料保存」及び「情報提供」の目的遂行のために作成されるものであり、前項が単純に「資料保存」の目的である点において異なり、公衆に提供し対外的に流通させることができる。

2011年4月12日 原文修正に伴い修正