著作財産権を有しないか又は著作財産権が消滅した文字著述又は美術著作について、製版者が文字著述に対して整理・印刷を行い、又は美術著作の原作品を複写、印刷又はこれに類似する方法により複製し、最初に発行し、かつ法に基づいて登記した場合は、製版者はその版面について、複写、印刷又はこれに類似する方法により複製する専用権を有する。製版者の権利は、製版が完成した時から起算して10年間存続するものとする。
前項の保護期間は、当該期間が満了する年の末日をもって期間の終了とする。
製版権の譲渡又は信託は、登記がなければ第三者に対抗することができない。
製版権の登記、譲渡登記、信託登記及びその他遵守すべき事項については、主務官庁がこれを定めるものとする。

【解説】

「製版権」は、各国の著作権法においては規定が設けられておらず、台湾著作権法に特有の規定である。また、一般的に「著作権」を通常「版権」と称することがあり、ますます「製版権」の真意がとらえにくくなっている。

「製版権」と「著作権」の最大の相違点は、「製版権」は著作財産権を有しないか又は著作財産権が消滅した文字著述又は美術著作を対象とすることにあり、文字著述を整理・印刷又は美術著作を複写、印刷若しくはこれに類似する方法により複製を行い、かつ登記することにより取得する。その目的は、法律上特別な権利を設定することにより、民衆が年代の古い流通価値を有する古書書画を新たに製版・印刷発行し社会の大衆と分かち合うことを奨励することにあり、性質的には経済投資利益を保証する「隣接権」に近い。

「製版権」の保護態様は次のとおりである。
1. 「製版権」は、著作財産権を有しないか又は著作財産権が消滅した文字著述又は美術著作を対象とし、換言すれば古書又は真筆書画を客体とし、著作権互恵関係が確立していないために台湾において著作権法の保護を受けない外国人の著作は含まれない。本条は外国人の著作を排除していないことから、年代が古いために著作権法の保護を受けない外国人の文字著述又は美術著作も製版権の客体とすることができる。

2. 「製版権」は、文字著述においては遺漏の補足や新たな印刷製作を含む整理・印刷行為を伴うが、その方法として、新たな組版を行う必要はなく、その対象は著作の原作品に限定されない。ポイントは、著作財産権を有しない又は消滅したものであることにある。ただし、美術著作においては、著作財産権を有しない又は消滅したものであることのほか、真筆書画を複写、印刷又は類似の方法により複製することを要し、かつ当該真筆書画はかつて製版発行されたものであってはならない。

3. 「製版権」は、経済部智慧財産局が定める「製版権登記弁法」に基づく登記許可手続を経なければ享有することはできない。著作権が著作の完成と同時に無方式主義により保護を受ける点と明らかに異なる。

4. 製版者はその製版した「版面」について複写、印刷又は類似の方法により複製する権利を専有することが「製版権」の概念であるが、製版者は当該古書書画に対しては専有権を享有しない。特に文字著述における「製版権」においては、他人は当然製版者が製版した「版面」を複写、印刷又は類似の方法により複製することはできないが、当該版面を利用せず当該著作財産権を有しない又は著作財産権が消滅した文字著述をこれとは別に製版する場合には、他人の製版権を侵害することはない。例えば、Aが先祖から受け継いだ宋版「李太白全集」を製版登記して製版権を取得し、Bがこれとは別に同一の宋版「李太白全集」を博物館から取得し利用してもAの製版権を侵害しない。

5. 「製版権」は製版完成時から起算して10年存続し、その保護期間は当該期間が満了する年の末日をもって期間の終了とする。

「製版権」と「著作権」は異なるが、著作財産権の消滅、制限等に関する規定は製版権に準用される。その他、デジタル科学技術の発展に伴い、多くの古書書画が創造的に選択又は配列されデジタルデータベースが作成されるようになり、これらは「編集著作」として保護を受けることから、書籍形式による新たな製版印刷方法による「製版権」の保護申請が行われなくなった。これは、科学技術の賜物による新たな保護方法であろう。