被雇用者が職務上完成させた著作は、当該被雇用者を著作者とする。ただし、契約により雇用者を著作者とする場合には、その約定による。
前項の規定により、被雇用者が著作者である場合、その著作財産権は雇用者に帰属する。ただし、契約によりその著作財産権を被雇用者に帰属させる旨約定した場合には、その約定によるものとする。
前2項にいう被雇用者には、公務員も含まれる。

【解説】

本条は、被雇用者が職務上完成させた著作の著作権関係について規定している。「被雇用者」とは、主として会社員、公務員、独立資本又は共同出資の場合の被雇用者、又はその他雇用関係が存在するあらゆる被雇用者をいい、学校の教員も被雇用者である。ここにいう雇用関係は、書面契約、健康保険の有無を要件とするものではなく、正式又は非正式の従業員、学生従業員であるかにかかわらず、実質的な雇用関係が存在しさえすればすべてこれに含まれる。

本条の適用は、被雇用者の「職務上完成させた著作」を客体とし、被雇用者が「職務上完成させた著作」ではないものには適用されない。

原則的に、「被雇用者が職務上完成させた著作」は「当該被雇用者を著作者」とし、「著作財産権は雇用者が享有」するものとし、実際に著作を完成させた従業員の著作者人格権を尊重する一方、他方では雇用者に経済上の利益―著作財産権を享有させるものとした。例外として、当事者双方は、雇用者を著作者とし、著作者人格権及び著作財産権を享有する旨約定することができる。極めてまれなケースであるが、約定により重要な被雇用者を著作者とし、その者に著作財産権を帰属させるとすることもできる。

被雇用者が職務上完成させた著作は、本条の原則に基づき、被雇用者が著作者として著作者人格権を享有しその著作財産権が雇用者に帰属する、又は特段の約定を設け雇用者が著作者として著作者人格権及び著作財産権を享有する、又は被雇用者が著作者となる場合に第2項但書に基づき著作財産権を被雇用者に帰属させることができるほかは、雇用者以外の他人を著作者とする又は他人に著作財産権を帰属させることを約定することはできない。その他、この約定は、著作者を定める約定及び著作財産権全体の帰属に対して約定を設けることができるとするものであり、異なる著作者人格権又は著作財産権の支分権を別々に被雇用者及び雇用者に帰属させることはできない。例えば、氏名表示権は被雇用者が享有し公開発表権及び不当改変禁止権を雇用者の享有とする、又は翻案権を被雇用者が享有しその他の著作財産権を雇用者が享有するような約定は、無効である。

「職務上完成させた著作」に関して、従業員が業務の効率を高めるために自発的に業務中に完成させた創作は、雇用者が命じたものではなく、自発的な努力によるものであったとしても、その完成成果が著作権法により保護される著作に該当する場合にはやはり「職務上完成させた著作」となり、その従業員が著作者となるが、その著作財産権は雇用者に帰属することとなるため、従業員は離職後無断で複製しその他に転用することはできない。このような事態は、有能な者ほど多く働き、その上何ら報酬がないのは不公平だと思われるかもしれないが、これは著作権法により解決すべき問題ではなく、業務上の創作に対して著作財産権を失う従業員はむしろ場所を選ばず発揮し得る改革・刷新能力を備えているのであるから、人材を引き留められず会社組織に損失をもたらさぬよう、雇用者はその他の方法を考慮して従業員の創作意欲及び積極性を奨励するべきであろう。

被雇用者は、就業中に職務上の著作を数多く完成させねばならない。被雇用者がこれらの著作の著作権関係について特別な約定を交わす必要があると考えた場合には、特に別途配慮を申し出ることにより、もしかすると創作に全力投球することができ、申し訳程度に行うルーティンワークにならないかもしれない。当然雇用者も、創作意欲を高めるために又は特別の配慮から、著作権に関して特別に約定を設けてもよい。

また、本条の規定により、実際の創作者以外の雇用者が著作者の地位を取得又は著作財産権を取得することは、承継取得ではなく原始取得であり、第21条の著作者人格権を譲渡又は承継することができないことに関する規定には違反しないし、また、第36条の著作財産権の譲渡にも該当しない。